東京家庭裁判所 昭和55年(少)7708号 決定 1980年7月07日
少年 Z・Y(昭三九・一〇・一一生)
主文
少年を東京保護観察所の保護観察に付する。
理由
一 非行事実および適条
少年は、昭和五五年四月一九日午後八時三〇分ころ、東京都北区○○○×丁目北区立○○公園内において、A外二名に対し、同人等が吸入することの情を知りながら、劇物であるトルエン、酢酸エチルおよびメタノールを含有するゴム糊缶入り二個、同チユーブ入り一個を授与したものである。
毒物及び劇物取締法三条三項、二四条の二第一号、毒物及び劇物取締法施行令三二条の二。
2 本件送致の有効性
本件は、警視庁○○警察署司法警察員が、昭和五五年五月二〇日、検察官を経由しないで直接当庁に対し、「件名」は「毒物及び劇物取締法違反、同法三条三項、二四条の二第一号」、「審判に付すべき理由」は上記非行事実同旨として送致されてきたものであることは、本件記録上明白である。
ところで、刑事訴訟法二四六条は「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。」と規定し、少年法四一条は「司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があると思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。」と規定している。本件非行は「二年以下の懲役若しくは五万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(毒物及び劇物取締法二四条の二第一号)犯罪であるから、検察官が刑事訴訟法二四六条但書の規定により指定した事件であるとは記録上認められない本件送致は、上記各規定に違反してなされたものであるというほかはない。
そこで、このように、司法警察員が、禁錮以上の刑にあたる罪の事件を、検察官を経由しないで直接家庭裁判所に送致してきた場合の送致手続の有効性が問題となる。思うに、このような送致手続は、刑事訴訟法二四六条、少年法四一条の各規定に違反しており、その意味で違法であることはもちろんであるが、しかしこの違法は送致自体の効力を左右するものではなく、したがつて本件送致は有効なものと解するのが相当である。けだし、上記各法条が禁錮以上の刑にあたる罪の事件について検察官経由の原則を採用している趣旨は、結局、これらの事件は少年法二〇条等により刑事処分に付される可能性がある関係上、公判維持の責任者である検察官をして事前に関与させることが望ましいという法政策的見地にたつものと考えられ、したがつて刑事処分に付するのはいわば例外的な場合に限られていると解すべき現行少年法のもとでは、この原則のもつ意義はさほど大きいものではないと解され、また、これらの事件を犯した少年についても送致以外に通告(少年法六条)および勧告(同法七条)という受理方法が認められている以上、現行法上検察官経由の原則が貫徹しているとはいい難く、そうであるとすれば、このような瑕疵ある送致方法であつて、これを審判条件欠缺の場合として無効視することは困難だからである。司法警察員においては、このような違法な送致が繰り返されるようなことがないよう、適正な運用に期待したいものである。
3 本件少年の処遇
少年の本件非行の態様および性格環境ならびに非行歴等にかんがみ、相当期間少年を保護観察に付することがその健全な育成を期するために必要と認められるので、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 梶村太市)